6.03.2011

第58回


6月3日(金)17:30から
場所:国立オリンピック記念青少年総合センター棟510
【著者セ ッション】
荒井裕樹『障害と文学』(現代書館、2011.1)
書評者:多田蔵人、生方智子
司会:田口麻奈
〈企画趣旨〉(田口麻奈)
今回は、荒井裕樹さん『障害と文学』の書評会を土台として、〈2000年代の文学研究〉の多様な局面のなかでもとりわけ独自性の強い〈障害者文学〉研究という領域を共有し、その最前線に触れる機会を実現できることとなりました。

荒井さんによる〈障害者文学〉研究とは、〈障害〉(これ自体、言葉の規定力を再考させずにはいない語として現前していますが)を持つ当事者の手になる表現活動を広く対象とする研究であり、医学や障害学だけでなく、社会福祉学、倫理学など多くの隣接諸分野を引き受ける不定形な研究領域でもあります。
優れた研究が必然的に学際性を帯びる、または学際的な知見から優れた研究が達成される、という理想的な帰趨を目指して、今日〈学際性〉は研究者にとって不可避の条件であり課題でもありますが、〈障害者文学〉研究とは、〈学際〉の拠点とするべき文学研究の領域にもディシプリンの確立を見ず、さらには、学問であること自体を揺るがしていく〈当事者性〉の問題を中枢に抱えています。それが研究主体の位置を絶えず脅かし、また、根拠づけていく与件であるとすれば、〈障害者文学〉研究の抱える問いを共有することは、文学研究そのものを問うことにまっすぐ繋がるはずだろうと思います。

今回、『障害と文学』に関するお2人のコメンテーターの方からのご報告に加え、著者ご本人からもご発表頂ける運びとなりました。荒井さんのご発表は、大きくは以下のような論点が中心となる予定です。

①文学研究における「政治性」について
②「学際化」は如何にして可能か?
③当事者(病者・障害者)の文学を読む意味とは?

上記の問題は、個別の著書や論文の成果を通してだけではなかなかクリアにしにくい議論であるだけに、荒井さんとお2人のコメンテーターに加え、皆さまのお考えを伺える貴重な機会になるかと存じます。
メインコメンテーターは、去年『精神分析以前』を刊行された、広い意味での〈障害〉を主眼に据えた専門的なお仕事のある生方智子さんにお願いしております。また、同じ研究室の出身者として荒井さんのご研究に持続的に関わってこられた多田蔵人さんからもコメントを頂く事により、複層的な議論を形作っていければと考えております。

〈2000年代の文学研究〉の達成を再考するというきむすぽの年間テーマに照らして、大変重要な一角を確認する企画になるかと存じます。多くの方にお眼にかかれますのを、心より楽しみに致しております。